レンケーズ
レンケーズ
2026年8月、大手ブランド品買取・販売会社の子会社で、経理を担当していた元社員が業務上横領の疑いで警視庁に逮捕されたと複数のメディアが報じました。報道によれば、この元社員は2025年11月から12月にかけて、会社の預金口座から自身の口座へ10回にわたって送金を行い、1億円を超える金額を着服した疑いが持たれています。発覚のきっかけは本人からの申告で、会社側は社内調査を経て懲戒解雇と刑事告発の方針を示していました(FASHIONSNAP「コメ兵HD子会社の元社員を逮捕 会社口座から1億円超着服か」)。
この事件で注目すべきは、被害額の大きさだけではありません。約1年間にわたり10回もの不正送金が行われながら、外部からの指摘ではなく本人の申告で発覚したという経緯です。経理という「お金の流れを一人で把握できる立場」にいる社員による不正は、日々の業務の中では極めて発見しづらいという特徴があります。
不正が起きる背景には、よく「不正のトライアングル」と呼ばれる3つの要素があるとされています。ひとつは借金や生活苦、依存症などの「動機」、もうひとつは一人で経理処理を完結できてしまう「機会」、そして「自分は一時的に借りているだけだ」「あとで返せばいい」といった「正当化」です。今回の報道でも、投資トラブルをきっかけとした資金繰りの必要性が背景にあったとされており、動機・機会・正当化の三つが揃ってしまった典型例と見ることができます。
刑事として数多くの横領・窃盗事案を扱ってきた実感として言えるのは、「まさかあの人が」というケースがほとんどだということです。真面目で長年勤めている人ほど周囲の信頼が厚く、チェックが甘くなりがちです。だからこそ、性善説だけに頼った経理体制は危険だと考えておく必要があります。
すべてに当てはまるわけではありませんが、実務でよく見られる予兆には次のようなものがあります。急に羽振りが良くなる、あるいは逆に生活に困窮している様子が見える。有給休暇や連続休暇を極端に取りたがらない(不正の発覚を恐れて自分が処理を止められない状況を作る)。特定の業務を他人に引き継がせない、マニュアル化を嫌がる。決算や残高確認の際に説明が曖昧になる、資料の提出が遅れる。こうした変化は、日頃から社員と顔を合わせている上司や同僚だからこそ気づけるものです。
実際に不正の疑いが浮上した場合、初動を誤ると証拠が失われたり、後の刑事告発や損害賠償請求で不利になったりすることがあります。ポイントは次の通りです。
第一に、本人を問い詰める前に、通帳や送金記録、システムのログなど客観的な証拠を可能な限り集めておくことです。証拠が固まる前に本人に気づかれると、資料の破棄や口裏合わせのリスクが生じます。第二に、事実確認の聴取は感情的にならず、複数人・記録を取りながら行うこと。第三に、被害額の全容を確定させるには、思っている以上に時間と専門知識が必要です。会計の専門家や、必要に応じて警察・弁護士との連携を早い段階から視野に入れておくことが、後の対応をスムーズにします。
もし今、自分の会社で「あれ、様子がおかしいな」と感じる社員がいたら、あなたはどう動くでしょうか。本人を信じたい気持ちと、組織を守らなければという責任の間で、判断に迷う方は少なくありません。証拠集めや聴取の進め方を誤ると、正当な処分ができなくなったり、逆に濡れ衣を着せてしまったりするリスクもあります。一人、あるいは社内だけで抱え込んで判断するより、早い段階で第三者の専門家に相談したほうが、取れる選択肢は確実に広がります。
再発防止の基本は「一人に権限を集中させない」ことに尽きます。入金・出金・記帳・承認を一人が完結できる体制は、性善説に頼った危険な状態です。ダブルチェック体制の構築、定期的な担当者のローテーション、抜き打ちの残高確認、内部通報制度の実効性の確保など、地道な対策の積み重ねが不正を未然に防ぎます。あわせて、経営者自身が「うちは大丈夫」という思い込みを一度手放し、外部の目でリスクを点検してみることも有効です。
弊社では、元刑事の実務経験を踏まえ、社内不正の予兆調査から発覚時の初動対応、再発防止のための体制づくりまで、企業様の危機管理コンサルティングを行っております。「これは相談するほどのことだろうか」という段階でも構いません。気になることがあれば、お早めにご相談ください。ちなみに私は、これまでの刑事経験から物事の見方が性善説から性悪説に転換しました(涙)

千葉県警察官時代、捜査一課課長補佐、所轄刑事課長を歴任。在職中、ストーカー殺人事件に携わり被害者保護の重要性を強く感じ、ストーカー・DV被害者を一人でも多く救いたい想いから2018年に株式会社RenK’zを設立。被害者を守る身辺警護、各種調査、とりわけストーカーの手口である盗聴、盗撮、GPSの発見調査に重きを置いている。